昭和63年(1988年)度

DSPによるセルフチューニング
PIDコントローラーの開発

研究者名:金井茂徳・左近英雄

指導教官:町田秀和

はじめに

 従来、石油,鉄鋼,電力等におけるプロセス制御においては、古くからPID調節器を用いたフィードバック制御が使われてきた。PID制御は、構造が簡単で安価である利点を持つが、PID各定数を最適値に調整することが難しく、設定を誤れば良い出力が期待できないどころか、対象のプラントや制御系全体の破損を起こす場合もある。
 この様に重要なPID各定数の決定方法はこれまで、「ジーグラ・ニコルスの過渡応答法」や「限界感度法」等の方法が提案されてきた、しかし、上記の方法で計算されるPID各定数を実際のプラントに適用する際には多くの場合経験と勘に頼った微調整が必要とされる。以上の問題点を解決するために、現在では、このPID調節器の各定数を対象とするプラントに合わせて自動的に調整決定する、「セルフチューニングPIDコントローラー」の開発が望まれている。
 そこで、我々は、始めに従来から使われているジーグラ・ニコルス過渡応答法の設計を補助する「PIDシミュレータ」を制作した。次にセルフチューニングPIDコントロラーを逐次最小自乗法を用いたアルゴリズムで実現し上記のPID制御による出力と比較し有用性を確かめた。
 また、DSP(ディジタルシグナルプロセッサ)を用いた高速化の可能性についても調べた。 
      結言

 我々は、「セルフチューニングPIDコントローラの開発」を目的とし研究を行った。本研究においては第一に従来のPID制御の問題点を知るために、特にPID定数の決定法に着目した。そこでPID定数決定法の中において最も一般的な「ジーグラ・ニコルスの過渡応答法」を例に取り、設計補助のシミュレータの製作を通しその特徴を検証した。
 その結果、従来のPID制御においては、どの様に最適なPID定数を求めるかが最も重要であり、 それゆえ種々の決定方法が提案されている。しかしこれらの方法の実行 には時間と手間がかかり、また最適化に多くの試行錯誤が必要とされる。 という問題が確認された。
 以上の問題の解決としてPID定数をリアルタイムに自動決定するセルフチューニングPIDが求められる現状が再認識された。そこで逐次最小自乗法を用いたパラメタ推定によるセルフチューニングPID制御則を構築した。そしてその有効性を検証するため、シミュレータを用いて従来のPID制御との検討を加え良好な性能が得られることを確かめた。
 さらにセルフチューニングPIDアルゴリズムの高速化の可能性を調べるために1入力当りの総計算量を算出しDSPを用いた場合と汎用プロッセサを用いた場合の積算時間の比較を行い、DSPを用いればかなりの高速化が実現できるという結果を得た。