1.1 位相とは (XGA(1024x768フルスクリーン)以上の大きさでご覧ください。)
まず高専1年生で習う三角関数sinを思い出してください。ここでは、次の2つの信号を
考えます。
u1 = a1 sin(2π f1t)
u2 = a2 sin(2π f2t+θ)
ここでは次の3つのパラメータが使われています。
a1,a2 : 振幅[V] = 山の高さ(ここでは一定値として考えません。)
f1,f2 : 周波数[Hz] = 1秒間の周期(山と谷の繰り返し)数
θ : 位相[deg] = ここでは信号u1の一周期を360度として、時間t=0での信号u2との角度差
(時間差)
それでは、下のグラフをご覧ください。左側のオシロスコープ横一画面分が1秒でsin波形が表示
されています。周波数と位相の意味が分かりますか?
右側の回転する棒はフェーザー(phaser:位相子)と呼ばれるもので、
この棒の水平軸からの高さがsinなわけです。
よければ、スクロールしてグラフとその下側を読んでください(画面が乱れたらWebブラウザの
更新(リロード)を行ってください)。
それでは、いろいろ試してみましょう。
(グラフとその下側を読んでください、画面が乱れたらWebブラウザの更新(リロード)を行ってください)。
- テキストボックスの周波数f1,f2は変更せずに、
位相phaseの値を-30にキー入力で変更し、
OKボタンを押してください。
ずいぶん波形が近づきました。右側の円グラフでは
u1(緑)を
u2(赤)が追いかけています。
これを位相差が-(マイナス)の時に「遅れている」と言います。
また左右両方のグラフともphaseの値を+30にキー入力で変更し、
OKボタンを押してください。
今度は、逆にu1(緑)より
u2(赤)が先走っています。
これを位相差が+(プラス)の時に「進んでいる」と言います。
- それでは次に、f1の値を6に、,f2とphaseは
そのままにして、OKボタンを押してください。
どうですか、位相差が時々刻々変化していますね。えーと、あっそうだ!!(ここでポンとヒザを叩いて欲しい)、
逆に考えればつまりどの時点でも位相差が一定であるということが、周波数が一致しているのです!!そう、それこそがPLLの目的であったわけです。
- 折角ですから試しに、f1,f2を両方とも
10にしてみてください。phaseの値が何でも位相差は一定ですよね。ここで注意して欲しいのは、
当たり前なのですが、周波数が高くなれば同じ位相角度でも時間差は小さくなることです。
他にもf1の値を負(マイナス)にするとどうなるでしょう。いろいろと
自由に試してください。
- もう一つコメントしておきます。PLLは入力周波数の周期毎しか位相を検出できないことです
(というより入力周波数を基準にしているのです:
位相比較器PDについては2.1節で紹介します)。実はここに落とし穴があります。
つまり、PLLは本質的にサンプリング制御系なのです。したがって、あまりにも周波数が遅すぎると、
サンプリング間の応答が変になります。またPLLのロックが入る時と外れるときは非線形な振る舞い
になります。非線形サンプリング制御系は究極にはリミットサイクル振動を生じたり、
カオス(混沌)になることが知られています
(講談社のブルーバック、山口昌哉、カオスとフラクタル
−非線形の不思議−、講談社、ISBN4-06-132652-X,\600,参照)。
しかし、きちんと設計されたPLLでは、ある周波数範囲ではロックは外れず(ホールドアウト)、
少々入力周波数が突然変化してもロックが外れず(プルアウト)、逆にロックが外れても
非線形なポンピング動作となりながらもロックに引き込まれていき(プルイン)、最終的に一周期以内にピタッと
ロックし(ロックイン)たりできます。このようなPLL特有の振る舞いについては
3章で触れます。
瞬時周波数と瞬時位相について
さて、クルクルと回転するフェーザー(位相子)を見ていると、「別に2つの信号でなくても、
1つの信号だけでも回転しているのは分かる。」のに気づくと思います。すなわち、
- すなわち、時々刻々の位相とはフェーザー(位相子)の回転角である。
- 時々刻々の周波数とは、すなわちフェーザーの回転速度である。
といえるでしょう。これをそれぞれ、
瞬時位相(instantaneous phase)および
瞬時周波数(instantaneous frequency)
と言います。もうお気づきでしょうが、次の関係があります。
- 瞬時位相の
時間微分が、
瞬時周波数である。
- 瞬時周波数の
時間積分が、
瞬時位相である。
これを理解するために、下のグラフを見てください。これは
チャープ(Charp)信号といって、周波数が時間に
比例して増加する信号です。なお、画面の中央(0.5秒)で位相をステップ的に90度進めています。
u = a sin(2π (qt+1) t)
ここで f=qt+1 , qは周波数増加率[Hz/sec]です。
ここで左のグラフの赤線が瞬時周波数であり
直線増加しており、
青線が瞬時位相であり
2次曲線的に増加
しているのが分かり、互いに微分/積分の関係
であることが良く分かります。
# このチャープ信号を用いるのには、あるシステムに入力し、その出力の振幅を見て
# 周波数応答を一目で把握したいという目的があります。
よければ、スクロールしてグラフとその下側を読んでください(画面が乱れたらWebブラウザの
更新(リロード)を行ってください)。
それでは試してみましょう(画面が乱れたらWebブラウザの更新(リロード)を行ってください)。
- 周波数増加率qを10くらいに大きくすると、瞬時周波数(赤線)の傾きが大きくなる。
- 周波数増加率qを 0にすると、瞬時周波数(赤線)が水平に、
瞬時位相(青線)が直線増加する。
- 周波数増加率qを-5と負にすると、どうなりますか?予想してから、試してください。
# ところで、実際に1つの信号から瞬時位相や瞬時周波数を直接計測できるものなのでしょうか?
# これは、できます。具体的には、複素信号として実部に原信号、虚部にそのHilbert変換信号を
# 格納した「解析信号」の位相角が瞬時位相、その時間微分が瞬時周波数になります。このことは、
# YAMAHAのFM音源に関連しています(実はHilbert変換は町田の修士論文のテーマでした :-)。
それでは、いよいよ次にPLLの基本動作を見てみましょう。
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